現代語の聖書『新改訳2017』で味わう『メサイア』

故中田羽後牧師がヘンデルのオラトリオ『メサイア』の日本語訳を出版し、演奏をしたのは1953年のこと。英語の原詞どおりのメサイアは戦前より日本で演奏されていましたが、中田師には歌詞の意味を邦訳の演奏を通して深く伝えたいという思いがありました。
ヘンデルの親友である著述家チャールズ・ジェネンズによるメサイアの台本は当時のイングランド国教会で用いられていた『欽定訳聖書』の各所から引用し書かれたものですが、そこには複雑なキリスト教の教理や正当的な信仰が簡潔にまとめられていたことに中田師は驚嘆を覚えたといいます。「どんな立派なプログラムができても、音楽とともに意味を理解しそのメッセージを享受したい気持は、声楽が盛んになればなるほど強くなるのは自然なことである」。邦訳の演奏を通して歌の意味を知り、「知らず知らずの間にキリストに引きつけられていたのだと感ずる人が出てくる」ことを期待して進められた日本語訳の作成。外国語による演奏が不可能となった戦時中に急遽作られた訳詞をもとに、改訂に改訂を重ねて出版されたのが、当教会が演奏するこの日本語訳メサイアです。
以下に中田師による日本語訳詞を、最新の現代日本語訳聖書である『新改訳2017』(新日本聖書刊行会)を引照に添えて掲載いたします。文語体で作られた訳詞では歌い手、聴き手が意味を汲み取ることを目的とし、日本語のアクセントに合わせるため、あえて邦語訳聖書のどれにも拠らない独自の意訳が施されています。音楽による感動を通してメッセージを伝えられるよう祈り選び抜かれた歌詞を通して、聖書の奥深い意味を味わってみてください。

※歌詞は、中田羽後牧師(1895-1974)による日本語訳詞をそのまま掲載しています。
※中田羽後師による日本語訳詞は、日本語のアクセントに合わせるため、邦語訳聖書のどれにも拠らず、独自に意訳されたもので、元の聖句を省略した所も間々ありますが、多くはむしろ原意を説明し、また敷衍する傾向を持たせています。
※現代語の聖書の引照は、新日本聖書刊行会翻訳による『新改訳2017』を採用しています。

第Ⅰ部 救世主の出現の預言とその成就

  • 1:序曲
  • 2:叙唱(テノール) 民よ、悩む民よ

民よ 悩む民よ 涙さりて聞けや 汝(な)が神なぐさめたもう  堪えがたき戦争(いくさ)は終わり 負債(おいめ)も拂(はら)われたりすでに
きけ 荒野の声を “道をととのえて 迎えまつれ救い主を”

【旧約聖書・イザヤ書40:1~3】
「慰めよ、慰めよ、わたしの民を。──あなたがたの神は仰せられる── エルサレムに優しく語りかけよ。これに呼びかけよ。その苦役は終わり、その咎は償われている、と。そのすべての罪に代えて、二倍のものを【主】の手から受けている、と。」 荒野で叫ぶ者の声がする。「【主】の道を用意せよ。荒れ地で私たちの神のために、大路をまっすぐにせよ。

  • 3:詠唱(テノール) 谷間は高くなり

谷間は高くなり 沼地は丘となり  山地は低くなり 砂漠は良き地となり  荒野は畑(はた)と変わらん

【旧約聖書・イザヤ書40:4】
すべての谷は引き上げられ、すべての山や丘は低くなる。曲がったところはまっすぐになり、険しい地は平らになる。

  • 4:合唱 見よ 神の栄光は地にあらわれ

見よ 神の栄光は地にあらわれ 人みな見るを得べし 主なる神はのたもう 御口(みくち)よりかくのたもう

【旧約聖書・イザヤ書40:5】
このようにして【主】の栄光が現されると、すべての肉なる者がともにこれを見る。まことに【主】の御口が語られる。」

  • 8:叙唱(アルト) おとめみごもりて

おとめ みごもりて 子を生まん 呼びまつれ “インマヌエル 主います” と

【旧約聖書・イザヤ書7:14】
それゆえ、主は自ら、あなたがたに一つのしるしを与えられる。見よ、処女が身ごもっている。そして男の子を産み、その名をインマヌエルと呼ぶ。
【新約聖書・マタイの福音書1:23】
「見よ、処女が身ごもっている。そして男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」それは、訳すと「神が私たちとともにおられる」という意味である。

  • 9:詠唱(アルト)と合唱 良きたより告げよシオンに

良きたより(御音ずれ)告げよシオンに 高山の峯より のぼれ頂上(いただき)まで 良きたより 聞けよエルサレム  “怖(お)じ惑うこと露もあらじ” と ユダに住むものらに 知らせよや 声も高く “ 御神ぞ来ます” と

【旧約聖書・イザヤ書40:9】
シオンに良い知らせを伝える者よ、高い山に登れ。エルサレムに良い知らせを伝える者よ、力の限り声をあげよ。声をあげよ。恐れるな。ユダの町々に言え。「見よ、あなたがたの神を。」
【旧約聖書・イザヤ書60:1】
起きよ。輝け。まことに、あなたの光が来る。【主】の栄光があなたの上に輝く。

  • 12:合唱 神のひとり子を

神のひとり子をわれら賜わりぬ 神の独り子をわれら 今や受く 政治(まつりごと)主の肩にあり 聖きその名は (御名を唱えよ 君はわれらの) “妙(たえ)に奇しき力ある 永遠(とこしえ)の父 平和の君”

【旧約聖書・イザヤ書9:6】
ひとりのみどりごが私たちのために生まれる。ひとりの男の子が私たちに与えられる。主権はその肩にあり、その名は「不思議な助言者、力ある神、永遠の父、平和の君」と呼ばれる。

  • 13:田園交響曲
  • 14:叙唱(ソプラノ) ある夜 羊飼いら

ある夜 羊飼いら 羊群(むれ)を守りおりしに
御使いそのかたわらに立ちて 御光り照りわたりたれば  大いに恐る

【新約聖書・ルカの福音書2:8~9】
さて、その地方で、羊飼いたちが野宿をしながら、羊の群れの夜番をしていた。すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。

  • 15:叙唱(ソプラノ) ひとびとおそるな

“人々 おそるな 見よ この民すべてに及ぶ大いなる音信(たより)を知らせん 今宵なんじらのために生まれませり 世をば救うキリスト”

【新約聖書・ルカの福音書2:10~11】
御使いは彼らに言った。「恐れることはありません。見なさい。私は、この民全体に与えられる、大きな喜びを告げ知らせます。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。

  • 16:叙唱(ソプラノ) たちまち み使いたち現われ

たちまち御使いたち現われ 御神をほめたたえぬ

【新約聖書・ルカの福音書2:13】
すると突然、その御使いと一緒におびただしい数の天の軍勢が現れて、神を賛美した。

  • 17:合唱 天にはさかえ 神にあれ

天(あめ)には栄光(さかえ) 神にあれ!  地には平和 世の民にあれ!

【新約聖書・ルカの福音書2:14】
「いと高き所で、栄光が神にあるように。地の上で、平和がみこころにかなう人々にあるように。」

  • 18:詠唱(ソプラノ) 世の人 よろこべ

世の人 喜べ うれしき声をあげて 歌え  いざ!  声をあげて 喜べ!  歌声たかく  迎えよ汝(な)が神を! 彼はまことに 正義と平和の主なり 彼はまことに 正義をなしたもう主なり 汝(な)が神 ついに来ぬ

【旧約聖書・ゼカリヤ書9:9~10】
娘シオンよ、大いに喜べ。娘エルサレムよ、喜び叫べ。見よ、あなたの王があなたのところに来る。義なる者で、勝利を得、柔和な者で、ろばに乗って。雌ろばの子である、ろばに乗って。わたしは戦車をエフライムから、軍馬をエルサレムから絶えさせる。戦いの弓も絶たれる。彼は諸国の民に平和を告げ、その支配は海から海へ、大河から地の果てに至る。

第Ⅱ部 救世主の受難・復活・昇天・福音の伝播

  • 23:詠唱(アルト) 悲しみの人なる彼は

悲しみの人なる彼は侮られ 人に捨てられ この世の悩みつぶさに嘗(な)めたまいぬ

【旧約聖書・イザヤ書53:3】
彼は蔑まれ、人々からのけ者にされ、悲しみの人で、病を知っていた。人が顔を背けるほど蔑まれ、私たちも彼を尊ばなかった。

  • 24:合唱 主なる彼は負いませり

主なる彼は負いませり罪と憂い  彼は世びとの咎(とが)のために傷つけられたまいて 世びとに真(まこと)の安き賜えり

【旧約聖書・イザヤ書53:4~5】
まことに、彼は私たちの病を負い、私たちの痛みを担った。それなのに、私たちは思った。神に罰せられ、打たれ、苦しめられたのだと。しかし、彼は私たちの背きのために刺され、私たちの咎のために砕かれたのだ。彼への懲らしめが私たちに平安をもたらし、その打ち傷のゆえに、私たちは癒やされた。[→25番]

  • 29:叙唱(テノール) 謗り受けし主は

謗(そし)り受けし主は 心くだかれ 死ぬるばかりに悩み 苦しめり 同情者ひとりもなく 慰めを与うる者なかりき

【旧約聖書・詩篇69:20】
嘲りが私の心を打ち砕き私はひどく病んでいます。私が同情を求めてもそれはなく慰める者たちを求めても見つけられません。

  • 30:叙唱(テノール) 思い見よ

思い見よ 主の受けましし酷(むご)き仕打ち  思い見よ 主の受けましし憂い悩み  世の中にあり得るや

【旧約聖書・哀歌1:12】
あなたがたには関係がないのか。道行くすべての人よ、よく見よ。このような苦痛がほかにあるか。私が被り、【主】の燃える怒りの日に主が私を悩ませたような苦痛が。

  • 31:叙唱(テノール) 世びとの咎ゆえ

世びとの咎(とが)ゆえ 彼は生けるものの地より  断たれしなり

【旧約聖書・イザヤ書53:8】
虐げとさばきによって、彼は取り去られた。彼の時代の者で、だれが思ったことか。彼が私の民の背きのゆえに打たれ、生ける者の地から絶たれたのだと。

  • 32:詠唱(テノール) 君は陰府に捨てられず

君は陰府(よみ)に捨てられず また墓の中にて朽つること断えてなし 御神の聖者(註:キリスト)は捨てられず陰府(よみ)に

【旧約聖書・詩篇16:10】
あなたは私のたましいをよみに捨て置かずあなたにある敬虔な者に滅びをお見せにならないからです。

  • 33:合唱 陰府をば服して

“陰府(よみ)をば服して 今かえる君のために 門(かど)を広くあけよ” “勝ちて帰りし君は誰(たれ)ぞ いかなる君ぞ” “敵なる死を破りまし君の君なり” “君とはだれぞ いと堅き陰府(よみ)の戸をも破りて帰りたまいし栄光(さかえ)の主におわすか” “まことに君は栄光(さかえ)の主なり 敵をば破りし力に満つる主  戦争(いくさ)に猛(たけ)き神 まことに敵を踏みつけし いと猛(たけ)き神  力に満つる君 (主) なり よろずの者の主なり”

【旧約聖書・詩篇24:7~10】
門よおまえたちの頭を上げよ。永遠の戸よ上がれ。栄光の王が入って来られる。栄光の王とはだれか。強く力ある【主】。戦いに力ある【主】。門よおまえたちの頭を上げよ。永遠の戸よ上がれ。栄光の王が入って来られる。栄光の王それはだれか。万軍の【主】この方こそ栄光の王。

  • 40:詠唱(バス) いかなれば諸国の民は

いかなれば諸国の民は 空(むな)しきことを計るか  計り騒ぐか もろ国びとは狂い叫び騒ぎ立つか 世の国民(くにたみ)は おのが腕と知識を頼み 世を造りし真(まこと)の神に逆ろう 聞かずやその声を

【旧約聖書・詩篇2:1~2】
なぜ国々は騒ぎ立ちもろもろの国民は空しいことを企むのか。なぜ地の王たちは立ち構え君主たちは相ともに集まるのか。【主】と主に油注がれた者に対して。

  • 44:合唱 ハレルヤ

ハレルヤ!  全能の主 治めたまわん 世の国民(くにたみ)今や 我らの主に帰するに及べり とわに主 おさめたまわん 主の主 諸王の王 ハレルヤ!

【新約聖書・ヨハネの黙示録19:6】
また私は、大群衆の声のような、大水のとどろきのような、激しい雷鳴のようなものがこう言うのを聞いた。「ハレルヤ。私たちの神である主、全能者が王となられた。
【新約聖書・ヨハネの黙示録11:15】
第七の御使いがラッパを吹いた。すると大きな声が天に起こって、こう言った。「この世の王国は、私たちの主と、そのキリストのものとなった。主は世々限りなく支配される。」
【新約聖書・ヨハネの黙示録19:16】
その衣と、もものところには、「王の王、主の主」という名が記されていた。

第Ⅲ部 信者の復活の約束と救世主の即位

  • 45:詠唱(ソプラノ) 贖い主は生く

贖(あがな)い主は生く 終りの日に 彼は必ず地の上に立ちたまわん 肉体は朽ち果て 塵(ちり)となるとも われは主を(神をば) 仰ぎ見ん
甦(よみがえ)りし主 (キリスト)こそ 眠りし者 また生命(いのち)にかえる 初穂なれ げに主は初穂なれ

【旧約聖書・ヨブ記19:25~26】
私は知っている。私を贖う方は生きておられ、ついには、土のちりの上に立たれることを。私の皮がこのように剝ぎ取られた後に、私は私の肉から神を見る。
【新約聖書・コリント人への手紙第一15:20】
しかし、今やキリストは、眠った者の初穂として死者の中からよみがえられました。

  • 47:叙唱(バス) きけきけこの奥義

聞け この奥義! 御民らは 今のままに  終りのラッパの響きに 姿かわらん

【新約聖書・コリント人への手紙第一15:51~52】
聞きなさい。私はあなたがたに奥義を告げましょう。私たちはみな眠るわけではありませんが、みな変えられます。終わりのラッパとともに、たちまち、一瞬のうちに変えられます。ラッパが鳴ると、死者は朽ちないものによみがえり、私たちは変えられるのです。[→48番]

  • 48:詠唱(バス) ラッパ鳴りて

ラッパ鳴りて 死者は目醒め もはや朽ちず  われら 御民も また変わるべし 栄えある身と われらみな変わるべし
※朽ちゆくわれらは ついに纒(まと)わん 朽ちざるものを身に 死ぬべき我らすべてのもの 絶えて死なぬもの身に 纒(まと)わん

【新約聖書・コリント人への手紙第一15:52~53】
[←47番]終わりのラッパとともに、たちまち、一瞬のうちに変えられます。 ラッパが鳴ると、死者は朽ちないものによみがえり、私たちは変えられるのです。この朽ちるべきものが、朽ちないものを必ず着ることになり、この死ぬべきものが、死なないものを必ず着ることになるからです。

  • 53:合唱 われらをば血もて

われらをば血もて買いたまいし子羊に  帰しまつれ 栄え 誉れ 富 権能(ちから) 知識 名誉  聖き血潮(ちしお)もて贖(あがな)いたまいし子羊に 帰しまつれ 栄え 名誉 富 権能(ちから) 知識 誉  賛美と名誉と権能(ちから)と富と知識  御座に座したもう子羊にあれ!  永遠(とわ)にあれかし! アーメン

【新約聖書・ヨハネの黙示録5:9】
彼らは新しい歌を歌った。「あなたは、巻物を受け取り、封印を解くのにふさわしい方です。あなたは屠られて、すべての部族、言語、民族、国民の中から、あなたの血によって人々を神のために贖い、
【新約聖書・ヨハネの黙示録5:12~14】
彼らは大声で言った。「屠られた子羊は、力と富と知恵と勢いと誉れと栄光と賛美を受けるにふさわしい方です。」 また私は、天と地と地の下と海にいるすべての造られたもの、それらの中にあるすべてのものがこう言うのを聞いた。「御座に着いておられる方と子羊に、賛美と誉れと栄光と力が世々限りなくあるように。」すると四つの生き物は「アーメン」と言い、長老たちはひれ伏して礼拝した。

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