聖 書 士師記16章4節~6節、15~22節

4 この後、サムソンはソレクの谷にいるデリラという女を愛した。
5 ペリシテびとの君たちはその女のところにきて言った、「あなたはサムソンを説きすすめて、彼の大力はどこにあるのか、またわれわれはどうすれば彼に勝って、彼を縛り苦しめることができるかを見つけなさい。そうすればわれわれはおのおの銀千百枚ずつをあなたにさしあげましょう」。
6 そこでデリラはサムソンに言った、「あなたの大力はどこにあるのか、またどうすればあなたを縛って苦しめることができるか、どうぞわたしに聞かせてください」。
15 そこで女はサムソンに言った、「あなたの心がわたしを離れているのに、どうして『おまえを愛する』と言うことができますか。あなたはすでに三度もわたしを欺き、あなたの大力がどこにあるかをわたしに告げませんでした」。
16 女は毎日その言葉をもって彼に迫り促したので、彼の魂は死ぬばかりに苦しんだ。
17 彼はついにその心をことごとく打ち明けて女に言った、「わたしの頭にはかみそりを当てたことがありません。わたしは生れた時から神にささげられたナジルびとだからです。もし髪をそり落されたなら、わたしの力は去って弱くなり、ほかの人のようになるでしょう」。
18 デリラはサムソンがその心をことごとく打ち明けたのを見、人をつかわしてペリシテびとの君たちを呼んで言った、「サムソンはその心をことごとくわたしに打ち明けましたから、今度こそ上っておいでなさい」。そこでペリシテびとの君たちは、銀を携えて女のもとに上ってきた。
19 女は自分のひざの上にサムソンを眠らせ、人を呼んで髪の毛、七ふさをそり落させ、彼を苦しめ始めたが、その力は彼を去っていた。
20 そして女が「サムソンよ、ペリシテびとがあなたに迫っています」と言ったので、彼は目をさまして言った、「わたしはいつものように出て行って、からだをゆすろう」。彼は主が自分を去られたことを知らなかった。
21 そこでペリシテびとは彼を捕えて、両眼をえぐり、ガザに引いて行って、青銅の足かせをかけて彼をつないだ。こうしてサムソンは獄屋の中で、うすをひいていたが、
22 その髪の毛はそり落された後、ふたたび伸び始めた。

金 言 
わたしの頭にはかみそりを当てたことがありません。わたしは生れた時から神にささげられたナジルびとだからです。 (士師記16:17a)
1.きよさのなかに与えられた力
 士師記の時代に生まれた士師のひとりにサムソンがいます。サムソンの名前は「太陽の人」または「破壊的」「強健な」の意味があります。その名が示すように彼はペリシテ人に対して人並み外れた力を発揮したイスラエルの勇士でした。サムソンは誕生する前からナジル人として聖別されていました。ナジル人とは「ささげられた者」とか「聖別された者」の意味です。ナジル人には三つの誓約ありました。ぶどう酒や強い酒を飲まないこと、汚れたもの特に死体に触れないこと、髪の毛を切らないことです。新約ではバプテスマのヨハネがナジル人だったと言われます(ルカ1:15)。またパウロも一時的にナジル人の請願をしました(使徒18:18)。ナジル人であるサムソンは聖霊に満たされると、「向かう所敵なし」とばかりにその怪力によって名前が轟いていました。しかしサムソンは自分に与えられた力に任せて粗暴な振る舞いをして、よこしまな考えを抱いて肉体の欲に走り、神のみおもいからは外れて行きました。
2.油断せずに心を見張れ
 ついにサムソンはペリシテ人の女性デリラへの愛欲に溺れて、心は神様から離れて行きます。サムソンはデリラに夢中になるあまりに、ナジル人として神様から選びと召しと使命をおろそかにします。一方でデリラはペリシテ人からサムソンの力の秘密を聞き出したら、多額の報奨金を渡そうと持ちかけられお金に目が眩み引き受けます。怪力のわけを聞かれたサムソンは辛うじて三度まではデリラをはぐらかしますが、デリラが巧妙な手練手管で口説くと、とうとうサムソンは自分がナジル人であり、髪の毛に力の秘密があることを打ち分けてしまいます。デリラは「サムソンがその心をことごとく打ち明けたのを見」て(16)、今度こそ真実を明かしたことを直感的に知ります。そこでデリラはサムソンが眠っている間に髪の毛を切ると、耳元でペリシテ人の襲来を告げます。そのときサムソンはすかさずいつものように戦おうとしましたが、「彼は主が自分を去られたことを知らなかった」(20)ので、襲いかかったペリシテ人にたちまち捕えられてしまいます。サムソンの力は髪の毛そのものにあったのではありません。サムソンはナジル人の誓願である神からの命令を破ったがゆえに神が共にいてくださるという約束が失われました。サムスンは神との祈りを軽んじてデリラと異性関係に戯れ、ナジル人として守るべき誓願を果たせませんでした。聖別が失われたとき神の力もサムソンを離れてしまいました。
3.失われたきよさの回復
 髪を切られたサムスンはペリシテ人にあえなく捕らえられ、目をえぐり出され青銅の足かせをかけて牢で臼を引かされます。このときになって初めてサムソンはこれまでの自分を深く悔い改めました。サムソンは牢で苦役に着く間に祈り続けて壊れていた神との関係を少しずつ回復し始めました。サムソンの魂は絶望していたので、神を強く呼び求めました。ダビデが詩篇51編でバテシバとのことを神のみまえに赤裸々に悔い改めたように、サムソンもことばには現れていませんが声にならない嘆きと叫びをもって主の憐れみをもう一度願いました。その祈りに主は応えられ、サムソンの剃り落とされた髪の毛は再び伸び始めました。幸いペリシテ人たちはそれに気づいたとしても注意を払うことなく、サムスンの髪は伸びていきました。ある日サムソンはペリシテ人の祭りの余興に引き出されます。屈辱に耐えながらサムソンは「神よ、もう一度わたしを強くして」(28)くださいと切に主に祈り求めます。すると自分の内にかつてのように力がみなぎり始めるのを感じます。サムソンは力を込めて宮の柱を倒すことで祭りに集まっていた多くのペリシテ人と諸共に自ら死を選びます。多くの罪を犯したサムソンでしたが、最期には神に祈り悔い改めて素直な信仰に立ち返りました。わたしたちもどんな罪を犯してもその罪を告白するなら、あなたは十字架の血によって赦されてきよめられます(詩篇32:1〜5)。