聖書各巻緒論(27)・預言書5
聖書:ダニエル2:14~24
2:14 そのとき、ダニエルは、バビロンの知者たちを殺すためにやって来た王の親衛隊長アルヨクに、知恵と思慮深さをもって応対した。
2:15 彼は王の全権を受けたアルヨクにこう言った。「どうしてこんなに急な命令が王から出たのでしょうか。」すると、アルヨクは事の次第をダニエルに知らせた。
2:16 そこでダニエルは王のところに行き、王にその夢の意味を示すため、しばらくの時を与えてくれるよう願った。
2:17 それからダニエルは自分の家に帰り、自分の同僚のハナンヤ、ミシャエル、アザルヤにこのことを知らせた。
2:18 それは、ダニエルとその同僚たちがほかのバビロンの知者たちと一緒に滅ぼされることがないように、この秘密について天の神にあわれみを乞うためであった。
2:19 そのとき、夜の幻のうちにこの秘密がダニエルに明らかにされた。ダニエルは天の神をほめたたえた。
2:20 ダニエルはこう言った。「神の御名はほむべきかな。とこしえからとこしえまで。知恵と力は神のもの。
2:21 神は季節と時を変え、王を廃し、王を立てる。知恵を授けて賢者とし、知識を授けて悟りのある者とされる。
2:22 神は、深遠なこと、隠されていることを明らかにし、闇の中に何があるかを知り、ご自分の内に光を宿される。
2:23 私の父祖の神よ。私はあなたに感謝し、あなたを賛美します。あなたは私に知恵と力を授け、今、私たちが尋ねたことを私に明かし、王の心の内を私たちに明かしてくださいました。」
2:24 それでダニエルは、王がバビロンの知者たちを滅ぼすために任じたアルヨクのもとに行き、彼にこう言った。「バビロンの知者たちを滅ぼしてはなりません。私を王の前に連れて行ってください。私が王に夢の意味をお示しします。」
イザヤ書、エレミヤ書、エゼキエル書(哀歌)に続く大預言書のダニエル書である。各書には特徴があるがダニエル書の特異性は大きい。
Ⅰ.ダニエルの背景
冒頭の1:1にあるようにエホヤキムの第3年(紀元前605年)にバビロン王ネブカドネツァルはエルサレムを包囲し侵略した。神殿の祭具を略奪し、捕虜を連れ帰った中に少年ダニエルはいた。ダニエルはバビロンの地でエゼキエルと同時期にそれぞれの使命に生きた。ユダヤ人のヘブル語聖書の区分ではダニエル書は預言書(ネビーム)でなく、諸書(ケトビーム)に分類される。ダニエルは預言者でもあるが、他の預言者には見られない政治との深い関わりがあった(2:48)。諸書には歴史書も、詩歌も、知恵文学と言われる箴言、伝道者の書も含まれる。ユダヤ人にとってダニエルは預言者だけではなく、知恵ある者とも受け止められている。ダニエルは預言者の枠を超えている。
Ⅱ.ダニエルの特徴
ダニエルは他の預言者との違いがあるが、文体の違いも大きい。ダニエル書は他の預言書以上に、黙示文学としての特徴を持つ。ダニエル書の幻は、ヨハネ黙示録と相互に関連付けて読むべきである。偶像礼拝者の高ぶり(5:23=黙示録9:20)、10の角を持つ四つの獣(7:7=黙示録13:1)、雲に乗る人の子イエス様(7:13=黙示録1:7)、イエス様の栄光の姿(10:5~11=黙示録1:13~19)、一時と二時と半時、
3年半の逃れの期間(7:25=黙示録12:14)。以上かいつまんで上げたが、細かなことは略する。ダニエルには彼の生きた時代、やがて起こること、終末に起こることが開かれていた。
ダニエル書は大きく2区分される。第一部は歴史的記述、ダニエルと3人の
ユダヤ人少年たちの召し、巨大な像の夢、金の像を拝むことを拒絶、ネブカドネツァルの病気、ベルシャツァルの祝宴、ダレイオスの禁令。第二部は予言的記述、四つの獣の幻、雄羊と雄やぎの幻、七十週の預言、神の幻、地上の戦い、終末の預言。異邦の地、異教の地にあってダニエルは大いなる神様のご計画を知らされ、捕囚の民に告げる者であった。
Ⅲ.ダニエルの働き
私たちも異教の地、真の神様を知ろうとしない世界に生きている。バビロンのダニエルと変わらない状況にある。ダニエルと3人の同僚たちは、相手が強く、大勢であったとしても、異邦の王とその国民、偶像の神々に妥協しなかった。しかし、ダニエルたちは反旗を翻したのではなく、自分たちの神が優れていると相手を見下したのでもない。無理難題に対しても、誹謗中傷を受けても、陥れようとする策略が張り巡らされていても、神様に委ねて動じなかった。神様の最善がなされていくことを信じて、神様に委ね、自分が果たしうる最善をなしていった。顔色をうかがい、妥協を重ねるのではなく、神様を待ち望んでいく姿勢を持っていた。このことが神様が働かれるための最善であることを信じ、生きていった。真の神様から離れたバビロンに生きる私たちへの示唆と励ましがここにある。
異邦の地で戦い続けたダニエルへの労いの言葉でこの書は閉じられる(12章)。